人の命、健康を守ることが最優先。しかしパンデミックで経済活動が止まり、人や物の交流が遮断されると市民生活はたちまち困窮し、企業や都市はおろか、国家さえつぶれるのではないかと危機感を抱く人もいたのではないか。そもそも国柄なのか、指導者の資質か、各国の新型コロナウイルス対策に格段の違いが浮き彫りになった。何が正しく、何が間違いだったか、確かな教訓を導き出し、パンデミックに備えなければならないという大きな命題を突きつけてきた。
戦いに明け暮れ、国内が乱れに乱れていた頃、人や物の往来には極めて不便だが、ただ防御に強いという理由で山城が築かれた。しかし活発な経済活動を興し、軍事費を稼ぎ、他国の情報を探り、そして街が栄え、領地が拡大発展するという教訓を導き出し、多くの戦国大名は平地へ城を築くようになったという。いつまでも山にこもり、時代の流れからも遮断された国は衰退し、敵国に領土を併呑された歴史がある。
いまの広島は大丈夫だろうか。世界から人、物、情報が集まる国際会議や見本市といった「MICE(マイス)」都市を目指し、大規模な会議場、展示場などの施設をつくろうと一歩を踏みだそうとした矢先、新型コロナウイルスが来襲し、その機運が大いにそがれた。だが、希望へ向かう歩みを止めてはならない。しばらく中断されていた「商工センター地区活性化検討会・MICE部会」の第3回が、6月5日に開かれた。
市の関係部局のほか、広島総合卸センターなどの団地組合や、広島市中央卸売市場、地元町内会などが出席。先行都市との比較を踏まえ、MICE施設の規模・機能などに関する市の調査結果を説明。事業推進の役割を担うファシリテーターとして活躍する田坂逸朗氏を会の進行役に、広島らしいMICEの在り方などが話し合われたという。
2017年に卸センターが「メッセコンベンション施設の誘致を中核とする商工センターのまちづくり」提案をつくったのが発端。その後、広島商工会議所が商工センター地区や広島西飛行場跡地を候補地にMICE施設の整備構想をまとめ、県や市へ提言。それぞれ調査費を予算化したが、県は1月に計画を断念すると発表した。これで商工センター地区に絞られた格好だが、卸センターは今年度から3D(3次元)画像で描く「まちづくり提案」をつくる。市が推進するMICE都市構想や中央市場建て替え事業との相乗効果を視野に入れ、中小企業会館や広島サンプラザ建て替えを核とするMICE施設整備構想の推進に向け、JR新井口駅周辺整備やペデストリアンデッキの拡充、おろしまちアジト通り(仮称)構想などを分かりやすくビジュアルにまとめる。
周回遅れの先頭に立つチャンスがある。例えば、新しい生活様式に対応し、換気が可能な大きな窓の会議室や、災害時の避難所、自動運転やオンライン機能を装備したスマートシティー、旅客船の港、交通アクセスや宿泊・商業施設整備などに抜かりなく、夢のある大胆な絵となるよう、英知を結集してもらいたい。計画倒れになり「もはや広島の出番はない」と烙印(らくいん)を押されることがないよう願う。